なぜテレビドラマは「F1」を狙うのか?視聴率を左右する性別、年齢区分の秘密とマーケティングの裏側

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F1、M1などの区分とは?

 テレビドラマのニュースや記事を見ていると、「今回はF1の支持が厚かった」「M2が離脱した」といった言葉を目にすることがあるだろう。業界関係者でなくとも耳にする機会が増えたこれらの言葉は、正確には「ビデオリサーチ」などの調査会社や広告代理店が使用する、個人視聴率測定のための属性区分のことである。

 テレビ番組、とりわけ民放のドラマは、慈善事業で作られているわけではない。そこには必ず「スポンサー(広告主)」が存在し、CMを見てもらい、商品を売るというビジネスの側面がある。誰に向けて商品を売りたいか、つまり「誰にこのドラマを見てほしいか」を明確にするために、性別と年齢で視聴者を区切る共通言語が必要となったのだ。

 まずは、この「性別、年齢区分」の基本定義を理解しておこう。非常に重要なので、以下の表にまとめた。

区分名対象となる性別・年齢具体的な属性イメージ
男女 4歳~12歳Child(子供)。アニメや戦隊モノの主要客。
男女 13歳~19歳Teenager(ティーン)。中高生。SNSでの拡散力が高い。
F1女性 20歳~34歳Female 1。流行に敏感な若手社会人・主婦。ドラマの最重要ターゲット。
F2女性 35歳~49歳Female 2。子育て世代や管理職世代。家庭の財布の紐を握る。
F3女性 50歳以上Female 3。時間的余裕がある層。健康食品や通販の主要客。
M1男性 20歳~34歳Male 1。若手社会人。趣味や嗜好品にお金を使う傾向。
M2男性 35歳~49歳Male 2。働き盛り。ビジネス関連や車、ビールのCMターゲット。
M3男性 50歳以上Male 3。経営層や定年後。時代劇やドキュメンタリーを好む傾向。

 この区分は、もともとマーケティング用語として使われていたものをテレビ業界が導入したものである。特に「F」はFemale(女性)、「M」はMale(男性)を指し、数字が上がるごとに年齢層が上がる仕組みだ。

 なぜこれほど細かく分けるのか。それは、「20代女性」と「50代男性」では、刺さるCMも、好むストーリーも全く異なるからだ。例えば、最新の口紅のCMを流したい化粧品会社がスポンサーの場合、M3(50歳以上男性)が高い視聴率を示している番組に広告を出しても、商品は売れない。F1が多く見ている番組に広告を出稿したいと考えるのは当然の理屈である。

 つまり、テレビドラマの企画段階において、「どの層を狙うか」は「どのスポンサーにお金を出してもらうか」と直結しているのである。これが、テレビドラマと年齢区分が切っても切れない関係にある最大の理由だ。

なぜテレビドラマは「F1」を特別視するのか

数ある区分の中で、テレビドラマ界において長年「王様(女王様)」として君臨してきたのが「F1(20歳~34歳女性)」である。なぜ、制作サイドは執拗なまでにこのF1を狙うのか。その理由は、彼女たちが持つ圧倒的な消費パワーにある。

  1. 消費の主体である F1はファッション、コスメ、美容、グルメ、旅行など、単価が高く、かつ頻繁に消費されるジャンルの主要な買い手である。スポンサー企業(資生堂、花王、トヨタ、サントリーなど)にとって、最も商品を売りたい相手なのだ。
  2. 流行の発信源(トレンドセッター)である 彼女たちは新しいものに敏感であり、面白ければすぐに周囲に広める。かつては口コミ、現在はSNS(Instagram、X、TikTok)を通じて、ドラマの感想や登場人物のファッションを拡散してくれる。にウケることは、無料の宣伝部隊を得ることに等しい。
  3. 在宅率と視聴習慣のバランス  M1(若手男性)は仕事や外出で家にいないことが多いが、F1比較的ドラマをリアムタイム、あるいは録画してでも熱心に見る習慣が根付いている。

この「F1至上主義」を決定づけたのが、1990年代のフジテレビ「月9(月曜夜9時枠)」ドラマである。「東京ラブストーリー」や「ロングバケーション」などは、明確にF1をターゲットに制作された。

  • トレンディな俳優の起用
  • 都会的なライフスタイル
  • 共感を呼ぶ恋愛模様
  • 最新のファッションと音楽

 これらを詰め込んだドラマは、F1を熱狂させ、社会現象となった。結果、「F1を取れば視聴率も取れるし、モノも売れる」という成功体験がテレビ業界に深く刻み込まれたのである。逆に言えば、長らくテレビドラマが「若い女性向けの恋愛モノ」ばかりになってしまったのは、スポンサーがそれを求め、テレビ局がその要望に応え続けた結果とも言えるだろう。

ターゲットによるドラマ内容とジャンルの変化

 ターゲットが変われば、ドラマの中身は劇的に変わる。F1向けとF3向けでは、キャスティングも脚本のテンポも全く異なる言語で作られていると言っていい。ここでは、ターゲット層によって具体的にどのようなドラマが作られているのか、その傾向を分析する。

以下は、一般的なマーケティングデータに基づく、各層が好むドラマの傾向である。

ターゲット好まれるジャンル・要素代表的なドラマ枠のイメージ備考
F1 (女20-34)ラブコメ、お仕事ドラマ
共感、胸キュン、ファッション、現代的な悩み。
火曜ドラマ(TBS22時)
月9(フジテレビ)
SNSでの実況が盛り上がりやすい。主演は同世代の女優やアイドル。
F2、F3 (女35+)サスペンス、医療、家族
勧善懲悪、ドロドロの人間関係、安定感のある脚本。
水曜ドラマ(テレ朝 21時)
日曜劇場(TBS)の一部
「相棒」や「科捜研の女」など長期シリーズが強い。リアタイ視聴率が高い。
(男女13-19)学園モノ、BL、デスゲーム
エッジの効いた展開、若手イケメン俳優、短い尺。
深夜ドラマ枠
配信オリジナル
テレビ離れが著しいため、TVerやTikTok切り抜きでの話題性を重視。
M3 (男50+)時代劇、経済ドラマ、刑事
組織の論理、正義、リアリティ、重厚感。
日曜劇場(TBS)
大河ドラマ(NHK)
「半沢直樹」などはM層も巻き込んだ稀有な例。

テレビ局は、曜日と時間帯(タイムテーブル)によって、狙うターゲットを明確に分けている。

例えば、TBSの火曜夜10時は、伝統的に「F1特化」の枠である。「逃げるは恥だが役に立つ」や「恋はつづくよどこまでも」など、働く女性が共感できたり、日々の疲れを癒やす「胸キュン」要素が必須とされる。ここでは、重厚な社会派ドラマや、泥臭い刑事ドラマは基本的には放送されない。

一方で、テレビ朝日の水曜夜9時(「相棒」や「特捜9」)は、F3、M3(シニア層)をがっちりと掴んでいる。ここには若者向けの派手な演出よりも、水戸黄門的な「いつもの安心感」が求められる。

 このように、テレビ局は「なんとなく面白いもの」を作っているのではなく、「火曜の夜10時にテレビの前にいる20代女性」といった具体的なペルソナ(人物像)を描き、そこにピンポイントで刺さるボールを投げているのである。ドラマの視聴率が伸びない時は、この「ターゲット設定」と「実際の内容」にズレが生じているケースが多い。

現代の視聴率事情~「世帯」から「コア」へ~

しかし、ここ数年でテレビドラマを取り巻く環境は激変した。「F1を狙え」という単純な図式では語れなくなってきているのだ。そこで登場したのが、「コア層(コアターゲット)」という新しい概念と「個人視聴率」への完全移行である。

 かつてニュースで報じられていた「視聴率20%!」という数字は、主に「世帯視聴率」を指していた。「テレビがついている家が何%あるか」という指標だ。 しかし、これには大きな欠陥がある。

  • 高齢者の影響力が強すぎる: 日本は超高齢社会である。人口構成比で言えば、F3・M3(50歳以上)が圧倒的に多い。そのため、高齢者が好む番組を作れば「世帯視聴率」は簡単に跳ね上がる。
  • 「誰が」見ているか不明: テレビがついているだけで、誰も見ていないかもしれない。あるいは、購買意欲の低い層だけが見ているかもしれない。

スポンサーは気づいてしまった。「視聴率は高いのに、商品が売れない」という矛盾に。そこで重視されるようになったのが「個人視聴率」である。

 現在、日本テレビやフジテレビなど多くの民放キー局が最重要指標としているのが、「コア層(主に13歳~49歳)」の個人視聴率である。

 定義は局によって微妙に異なるが(「ファミリーコア」などと呼ぶこともある)、概ね「将来を含めて購買力があり、広告効果が高い現役世代」を指す。 この変化により、以下のような逆転現象が起きている。

  • ドラマA: 世帯視聴率12%(視聴者は主に65歳以上)
  • ドラマB: 世帯視聴率7%(視聴者は主に20代~40代)

 昔なら「ドラマA」が勝ちだった。しかし現在は、スポンサー視点では「ドラマB」の方が圧倒的に価値が高いと判断されることが多い。ドラマBの方が、CMの商品が売れるからだ。 最近のドラマで「視聴率は一桁なのに、続編が決まったり映画化されたりする作品」があるのは、この「コア視聴率」が高いからである。逆に、世帯視聴率が高くてもコア層が見ていない番組は、広告単価が上がらず、打ち切りの対象になることさえある。

 このシフトチェンジにより、作り手は「高齢者に媚びた番組作り」から、「数字(世帯)は多少低くても、若者や現役世代に深く刺さるコンテンツ」へと舵を切り始めているのだ。

未来予測~配信と多様化する区分~

 最後に、これからのテレビドラマとターゲット区分の未来について考察する。TVerやNetflix、Amazon Prime Videoなどの動画配信サービスの普及は、従来の「F1、M1」という大雑把な区分を無意味にしつつある。

 リアルタイムでテレビを見る人は年々減っている。特にT、F1、M1はその傾向が顕著だ。彼らは自分の好きな時間に、スマホやタブレットでドラマを見る。 これに伴い、評価軸も「視聴率」から「再生数(TVerなど)」や「オリコン満足度」「SNSのエンゲージメント数」へと多角化している。

 例えば、フジテレビのドラマ「silent」は、世帯視聴率は爆発的ではなかったが、TVerでの見逃し配信再生数で歴代記録を塗り替え、Xで世界トレンド1位を連発した。これは、従来の「F1」という枠組みを超え、「配信で見る層(ストリーミング層)」という新たな巨大マーケットを可視化した事例である。

 今後のマーケティングは、単に「20代女性(F1)」という性年代別だけで括ることは難しくなるだろう。同じ20代女性でも、「推し活に命をかける人」と「ミニマリストで消費しない人」では行動が全く違うからだ。

これからは、性年代だけでなく、「興味、関心」で括る「トライブ(部族)」ごとのターゲット設定が重要になる。

  • 「考察好きトライブ」に向けた、伏線回収ミステリー
  • 「サウナ、ソロ活トライブ」に向けた、癒やし系ドラマ
  • 「BL、多様性トライブ」に向けた、ジェンダーレスドラマ

 このように、ターゲットを細分化し、そのコミュニティ内で熱狂的なファンを作る「狭く深い」コンテンツ作りが求められる。 「F1」という言葉は、テレビ黄金期の象徴として残るかもしれないが、実態としてはより複雑で、より個人の好みに寄り添った区分へと進化していくはずだ。視聴者である私たちも、自分がどのターゲットとして狙われているのかを意識してドラマを見ると、制作側の意図が見えてより一層楽しめるのではないだろうか。

まとめ:視聴率と区分の裏側を知ればドラマはもっと面白い

 テレビドラマにおける「F1」を中心とした性別、年齢区分について、その定義から歴史、そして最新のマーケティング事情までを徹底解説してきた。

記事の要点まとめ:

  1. 基本定義: F1(女性20-34歳)などは、スポンサーへの広告価値を示すための共通言語である。
  2. F1層の価値: 消費意欲が高く、流行を作る拡散力があるため、ドラマ制作の最重要ターゲットとされてきた。
  3. 内容への影響: ターゲット(F向け、M向け)によって、ジャンルやキャスティングは明確に作り分けられている。
  4. 現代の変化: 「世帯視聴率」から、現役世代の支持を見る「コア視聴率(個人視聴率)」へと評価軸がシフトした。
  5. 未来の展望: 配信の普及により、性年代だけでなく「興味関心」に基づいたターゲット設定が重要になる。

 「最近のドラマはつまらない」あるいは「すごく面白い」と感じる時、それは作品の質の問題だけでなく、「あなた自身がそのドラマのターゲット層に入っているかどうか」の違いである可能性が高い。

 テレビ局は今、必死になって視聴者の顔を見ようとしている。数字の向こう側にいる私たち一人ひとりの「熱量」こそが、これからのドラマの未来を決めると言っても過言ではない。 次にドラマを見る際は、「これはどの層を狙った演出だろう?」と推測しながら見てみてほしい。きっと、今までとは違った新しい発見があるはずだ。