LOVED ONE⑨

REVIEW

第9話 “許さない”と遺した老人

キャスト

水沢真澄 … ディーン・フジオカ
桐生麻帆 … 瀧内公美
本田雅人 … 八木勇征
高森蓮介 … 綱啓永
松原涼音 … 安斉星来
吉本由季子 … 川床明日香
篠塚拓実 … 草川拓弥
井川薫 … 上川拓郎
山崎慎也 … 小松和重
堂島穂乃果 … 山口紗弥加

あらすじ

○拒絶された面会
 法医学者・水沢真澄(ディーン・フジオカ)は、15年前の白峯女子連続殺害事件で死刑判決を受けた芹沢真一(渋谷謙人)と面会する。真澄は、当時の鑑定結果に疑問を抱きながらも事件から逃げてしまったことを謝罪し、真相解明のため協力を求める。しかし芹沢は「今さら何をしに来た」と拒絶し、面会は平行線のまま終わる。過去と向き合おうとする真澄の決意は固いが、15年という時間の重さが簡単には埋まらないことを痛感させられる。一方その頃、MEJには高齢男性の異状死体が発見されたという連絡が入り、真澄とMEJセンター長・桐生麻帆(瀧内公美)は新たな現場へ向かう。白峯女子事件というシリーズの核心と、孤独死のように見える新たな案件が同時進行で動き始める導入である。

玄関への執念
 アパートで発見されたのは、75歳の須崎秀夫(小宮孝泰)の遺体だった。死後数日が経過しており、部屋には「許さない」と書きなぐったメモが残されていた。後頭部には古い打撲痕があり、慢性硬膜下血腫も確認される。しかしそれは直接の死因ではなく、遺体の状態からは、布団から動けなくなった須崎が長時間座ったまま衰弱していったことが推測された。にもかかわらず、遺体は玄関近くで倒れていた。真澄は、最後の力を振り絞って玄関へ向かった痕跡に注目する。検査技師・吉本由季子(川床明日香)は、須崎の境遇に一人暮らしの父・茂(遠山俊也)を重ね合わせ、他人事として扱えなくなっていく。

赤い丸の意味
 由季子は刑事・井川薫(上川拓郎)とともに須崎の部屋を再調査する。整理された冷蔵庫や手の届きにくい場所にしまわれた調理器具、そしてスーパーのレシートと赤い丸が記されたカレンダーが目に留まる。由季子は幼い頃、父が「良いことがあった日」に赤い丸を付けていたことを思い出す。レシートの日付と赤い丸が一致していることから、須崎は誰かと買い物をしていた可能性が浮上する。さらに防犯カメラを調べると、毎回同じ人物が須崎と同じ時間帯に映っていた。孤独死と思われた事件の背後に、須崎が毎週楽しみにしていた“誰かとの時間”が存在していたことが見え始める。

○食卓がつないだ縁
 スーパーの映像に映っていた男・林田康彦(前原洸)は、窃盗容疑で拘留されていた。真澄と由季子が事情を聞くと、林田は3カ月前に須崎の部屋へ空き巣に入ったことを告白する。しかし須崎は通報せず、3万円を渡して「その金で飯を作ってくれ」と頼んだ。服役歴があり、出所後も社会に居場所を見つけられなかった林田にとって、須崎との食事は唯一心が安らぐ時間になっていった。毎週金曜の夕方、二人は一緒に買い物をし、食卓を囲むようになる。だが林田が再び罪を犯したことで、須崎のもとへ行けなくなってしまう。カレンダーの赤い丸は、林田が訪れた日を示していたのである。

○許さないの本心
 林田が来なくなった後、須崎は一人でスーパーへ向かい、その帰りに転倒して慢性硬膜下血腫を発症した。症状は徐々に進行し、体の自由を奪っていく。須崎の死因は、強い孤独と喪失感によるストレスが引き起こした「たこつぼ型心筋症」だった。金曜の夕方、インターホンが鳴ったとき、須崎は林田が戻ってきたと思い、動かなくなった体を引きずって玄関へ向かう。しかしドアの向こうにいたのは家賃を催促する大家だった。絶望した須崎は、その場で息絶える。メモの「許さない」は林田への憎しみではなく、「もう来ないのか」という寂しさの叫びだったのである。由季子はその思いを林田に伝え、自らも父との関係を見つめ直していく。そして最後に、麻帆はMEJが今月末で閉鎖されることをメンバーへ告げる。

見どころ

○遺体が語る孤独
 法医学が単に死因を特定するだけでなく、故人が最期に何を思っていたのかまで浮かび上がらせることを強く印象づけた。慢性硬膜下血腫やたこつぼ型心筋症といった医学的事実が、「誰かを待っていた」という感情へ結びついていく過程が見事である。遺体の位置や擦過傷が、須崎の最後の行動を物語る証拠になっていた。

○父のカレンダー
 これまで脇役に近かった由季子の内面が大きく掘り下げられた回でもある。父から「もう来なくていい」と言われながらも、カレンダーの赤い丸によって本当の気持ちを知る展開は胸を打つ。須崎と林田の関係が、由季子と茂の関係を映し出す鏡として機能しており、事件が彼女自身の人生にも影響を与えていく構成が巧みだった。

○終わりの通告
 エピソードのラストで突きつけられるMEJ閉鎖の決定は、シリーズ全体を大きく動かす転換点である。孤独な死者の声を拾い上げてきた組織が終わろうとしている現実は重い。麻帆が必死に守ろうとしてきた制度が、ここに来て存続の危機を迎えることで、最終章へ向けた緊張感が一気に高まった。

感想

 一人の老人が誰かを待ち続けていたとい事実を法医学の力で一つずつ紐解いていく過程が見事な回だった。

 体がまともに動かない状態で須崎が玄関へ向かった理由が明らかになった瞬間は、何とも言えない気分になった。待ちに待った希望の光みたいなものが玄関に見えたのだろう。それが待っていた人でないとわかった瞬間の絶望感といったら想像を絶する。

 さらに須崎を演じた小宮孝泰の演技が素晴らし過ぎた。足の不自由さの演技も自然に見えたし、最後の力を振り絞って玄関へ向かうシーンだけでも見る価値はあるほどの名場面だ。

 メモの「許さない」という言葉が、怒りではなく寂しさの裏返しだったという着地は胸を打たれる。

 法医学が遺体の声を聞くだけでなく、生者の抱えていた感情や人生の機微までをも救い上げるのだというこのドラマの哲学が凝縮されていた。

 また、由季子と父親の親子関係を、今回の事件と綺麗にリンクさせて描いていたのも良かった。カレンダーの赤い丸を見つける場面、あえて多くを語らないからこそ、不器用な親子の愛情がまっすぐに伝わってきた。

 一方で、ラストに突きつけられた「MEJ閉鎖」という非情な決定、何とも理不尽な感じとともに15年前の事件が関わっているのだろうという気がしてならない。