第6話 夏目漱石の暗号解読せよ。文学版ホームズ東京編、開演!
キャスト
野宮ルナ … 波瑠
沢辻涼子 … 麻生久美子
田村徹矢 … 栁俊太郎
佐藤和人 … 作間龍斗(ACEes)
小湊弘樹 … 渋川清彦
沢辻菊雄 … 田中直樹
【第6話ゲスト】
倉田文彦 … 伊武雅刀
矢野和臣 … 前野朋哉
女性 … 一ノ瀬美空
鈴本優一 … 吉田晴登
あらすじ
○新たな依頼と「吾輩は猫である」
沢辻涼子(麻生久美子)と野宮ルナ(波瑠)が東京での日常を取り戻した頃、ルナの従兄・正義(田村健太郎)が訪ねてくる。ルナの母から、長年確執のある父の古いパソコンのパスワード解読を依頼されたという。ヒントはデスクトップ画面に設定されていた夏目漱石「吾輩は猫である」の初版本の画像のみ。ルナたちは手がかりとなる初版の復刻版を求めて、顔馴染みの老舗古書店「桜書房」へと向かう。同行する田村(栁俊太郎)とともに下北沢の店舗へ足を踏み入れると、そこには頭から血を流して倒れている店主・倉田(伊武雅刀)の姿があった。
○古書店主襲撃と消えた現金
倉田は直ちに病院へ運ばれるが意識不明の状態に陥る。現場の状況から、高価な古書数冊とレジの現金が奪われていることが判明する。しかし、なぜか10円玉だけが残されていた。強盗事件として警察が捜査を始める中、ルナは現場に残された不自然な痕跡や、本棚の奇妙な隙間に疑問を抱く。常連の宅配業者・鈴本(吉田晴登)の証言により、事件直前に若い女性が本を受け取りに来ていたことが発覚する。ルナは、高齢者を狙う特殊詐欺グループの受け子と呼ばれる謎の女性(一ノ瀬美空)が事件に深く関与していると推理を展開し始める。
○現場に残された坂口安吾の暗号
ルナは、倉田が襲撃を受けながらも自身の意志を伝えようとした痕跡に気づく。彼が意図的に袋に詰めた本や、不自然に折り目がつけられたページは、坂口安吾の作品を用いた暗号であった。安吾の随筆から、倉田が自身の耳が遠い事実を警察に示唆していると読み解いたルナ。実は倉田はスマートフォンと連携可能な最新の補聴器を使用しており、それを密かに女性へ手渡した本の袋の底に忍び込ませていた。詐欺グループの監視役に暴行を受けながらも、その状況を利用して犯人の拠点を特定するための追跡経路を確保していたのである。
○10円玉と領収書に込めた願い
倉田が残した補聴器の位置情報を頼りに、警察は特殊詐欺グループの拠点を突き止め一味を逮捕する。なぜ倉田は受け子の女性を直接問い詰めなかったのか。それは、彼女が現金を受け取った時点で詐欺が成立してしまうためであった。倉田は彼女を犯罪者にしないよう、高価な本を10円で売却したことにして領収書を発行した。万が一捕まっても、客として本を買っただけだと証明できるように。かつて亡くした家族と目の前の女性を重ね合わせ、若者が罪に染まるのを防ごうとした倉田の行動に、涼子たちは静かな衝撃を受ける。
○残された試行回数と次なる謎
倉田の行動の真意を知った受け子の女性は自身の行いを悔い、意識を取り戻した倉田の病室へと謝罪に訪れる。事件が収束し、ルナと涼子は再びパソコンのパスワード解読に向き合う。初版の発行年月日など関連する数字を入力してみるが、画面にはエラーが表示される。パスワードの正確な答えについては第6話の時点ではわからない。ロックが完全にかかるまで、残された入力の猶予はあと数回しか残されていない。父親はなぜこの画像を壁紙に設定したのか。多くの謎が未解決のまま残る中、二人は次なる手がかりを求めて動き出す。
見どころ
○文学知識が導く論理的な謎解き
最大の見どころは、文学作品の知識を駆使して事件の真相に迫るルナの論理的な推理過程である。今回は夏目漱石の「吾輩は猫である」から始まり、坂口安吾の随筆へと繋がる知的な暗号解読が展開される。単に物証を追うのではなく、本棚の配置や折り目がつけられたページの意味など、書物を熟知する者だからこそ察知できる微細な違和感から真実を抽出していく過程は非常に見応えがある。文学が単なる教養としてだけでなく、人間の行動原理や隠された意図を読み解く実用的な指標として機能する、本作の骨頂が存分に表現されている。
○古書店主が身を挺して示した慈愛
倉田が自らの危険を顧みず、罪を犯そうとする若者を救おうとした行動も特筆すべき点である。特殊詐欺の末端にいる女性を単なる犯罪者として警察に突き出すのではなく、とっさの機転で彼女を「古書の購入客」へと仕立て上げる。わずか10円の代金と領収書に込められたのは、過去に家族を失った彼自身の痛切な後悔と、過ちを犯しかけた若者の未来を絶ち切らせまいとする祈りである。暴行を伴う冷酷な事件の裏に隠されていた、血の通った人間の善意が、謎解きだけにとどまらない物語の多面的な広がりを証明している。
○東京編の開幕と深まる家族の謎
前半の大阪でのカズト(作間龍斗)を探す旅を終え、舞台を東京へと移した新章の幕開けである点も重要である。涼子が自身の過去と向き合い決着をつけた一方で、今度はルナ自身の抱える家族の確執という新たな課題が提示される。長年距離を置いていた父親のパソコン、そこに遺された夏目漱石の壁紙、そして母がなぜ今になってルナに解読を託したのか。制限回数のあるパスワードという制約が物語の推進力となり、今後の展開への興味を惹く。涼子とルナが互いの痛みを共有し、より対等な関係で新たな謎に立ち向かう姿に注目したい。
感想
舞台が大阪から東京へと移り、新たな局面へ突入したことを印象付ける回だったように思う。
大阪編では子自身の過去に区切りをつけ、東京編では彼女を引っ張ってきたルナの背景ににスポットが当たるという構成だ。
今回中心となるのは古書店主・倉田。自分が暴行を受けて怪我をしているにもかかわらず、目の前の若者が犯罪に手を染めるのを阻止しようとする姿にどういった人生を歩んできたのだろうと思った。
ただ、朦朧としているだろう状況の中で犯人の痕跡を伝えようとすることは可能なんだろうかとは思うが、そこはドラマとして楽しむべきなのだろう。
また、坂口安吾の随筆や夏目漱石の作品が、ただのオシャレな小道具ではなく、キャラの心理描写や謎解きの伏線として論理的に機能している脚本のクオリティの高さも流石だと思った。
パスワードの試行回数という制約が緊張感を生み出していて、おそらくその回数ごとにストーリーがありそうだ。
そして、ルナの父親が残した真実がどう明かされていくのか興味深い。
